診察室に、医者と女が居た。 女は診察台に横たわり、医者は手馴れた手つきで処置を施してゆく。治療中、女の視線はあてどなく中をさまよい、それから、ふとした拍子に天井近くの壁に掲げられた額に向けられると、筆で書かれた墨痕を熱心に目で追い始めた。 …
山裾の奥、谷川に沿って曲がりくねった道を登ったその先に、目的の建物はあった。茶色い板張りの古びた構えの前に狭い植え込みがあった。そこから先は登山道で、旅館も人家もすっかり途絶える本当の山奥だ。すぐ脇を流れる水音が絶えず耳に響き、木の間に小…
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